タロットマスターRuRu

番外編・とある日のディナー準備

はじめてのひとり旅【ロンドン】#27

おはようございます。早姫です。

日記内では絶賛風邪を引いてる私ですが、ここでちょっと違う日の話を。すごく印象的な出来事やったけど、何故か日記に書いていないので、ここに記しておこう。

留学後半だったと思う。風邪も明け、ホームステイにも、ロンドンにもそこそこ慣れてきた日、私は学校から帰ってきて、自室で新聞を読んだり、学校から与えられたホームワークをしていた。

ゆっくり過ごしていると、ドアをノックする音が。「Saki〜?」と、サイモンが外から呼んでいる。

私は「Yes?」と応えてドアを開けた。

聞き取りにくいサイモンのスコティッシュ英語を、必死で聞き取る。その内容は

「これから皆で夕方のランニングに行くから、オーブンで焼いている、ディナーのポークチョップを十五分経ったら裏返して欲しい。そしてそこからまた数分(忘れた)焼いて欲しい」

だそうだ。

お易い御用だ。私は自室で読んでいた新聞を持って、ダイニングまで降りる。オーブンを覗き込むと、美味しそうなポークチョップがジリジリと焼かれている。

「これをひっくり返してね」 

と、オーブンを見ながら確認し

「OK!」

と、返事をした。オーブンの横にあるダイニングテーブルに着席。新聞を読みながら、本日のディナー、ポークチョップの番をすることにする。これは、結構ご馳走な日だ。

横ではサイモン、アレキサンドラ、アリステア達がランニングウェアに着替えており、皆で出かける準備万端で、何やら話をしている。

私は、あまり皆と喋る元気もないので(英会話をするとカロリー消費がエグい)、新聞に集中しているふりをして、三人が出かけるのを待っていた。

少し経って、チラリとオーブンを見ると、五分ほど経っていた。が、三人が出かける気配は、まだない。

『はよ行きや』

と、こっそり心の中で思ったり思わなかったり。三人の会話はますます話が盛り上がっているが、全力でスルー(英会話がしんどいから)。

私は、そろそろ新聞に飽きてきたので、ダラダラしたいのだが、三人の話の輪に入るつもりもないので、頑なに新聞を読む姿勢を崩さない。そうして、もう五分ほど経った。

が、まだおる。

『いつ行くねん』

ヤキモキする私。新聞に飽きたので、オーブンを覗いたりして、間を持たせる。焼き色が付いてきて、美味しそうなポークチョップがオーブンの中で明かりに照らされている。

『もう少し』

再び着席して、あと数分を待つ。自分の家の料理なら、もういいかな。と、ひっくり返したいところだが、よそのお家のやつやし、時間言われてるし。てか、まだおるし。ここは言われた時間通りにやっておこう。

行動は破天荒に見えて、実は従順なワタクシです。

しかし、このあと数分が、めちゃくちゃ長く感じる。オーブンのタイマー、なんか遅いとかないでな?

つか、この状態であと数分なら、ランニングに出かける前に「ひっくり返し」をやってから出かけたらよかったのでは?という突っ込みが、心をよぎる。

頭のいい方なら「なんでランニングのタイミングで調理をした?」とも思うだろう。

それは,

それはこの際、置いてくことにする。

色々な葛藤で頭の中が忙しかった私だが、やっと十五分のタイマーが鳴った。

私はサイモンの指示通り、ポークチョップの「ひっくり返し」をするべく、オーブンをオープン。熱気とともに、ジューシーな油の香りが漂ってくる。美味しそうだ。

と、その私の後ろから、三人がオーブン覗き込んできた。

『おぃぃ!runningのソレはどこいってん!?私が呼ばれた意味よ!?なにこれ!?自分でできたやないか!』

心の中で叫ぶ私。しかし、そんなことは、このざっくり家族は全く気にしていない。もしかしたら、早姫を自室から呼び寄せたことも、忘れてるかもしれん。心の中でツッコんでいる私の後ろで「Oh!」とか「Wow!」みたいな感嘆の言葉が上がり、私の「ひっくり返し」の間、美味しそうなポークチョップを見て、三人は盛り上がっていた。

手伝わされたことに怒っている訳ではなく、この家族、このようなツッコミどころ満載な行動を日常茶飯事で起こす。おかげで一ヶ月退屈せずに済んだのだが。

関東出身の、大人しい同居人Aちゃんでさえ、ロンドンの人のこと、とりわけこのファミリーのおおらかさ(控えめに言ってみました)にはツッコんでらっしゃった。約一年も一緒に住んでいれば、それは色々あったことだろう。しかし…いや多分、日本人が細すぎるんだと思う。時間だって、日本人ほど細かい人種は今の所(40歳の現在)見たことがないからね。

ポークチョップをひっくり返すだけの簡単なお仕事を無事に終え、この日のディナーは、皆で楽しく頂きましたとさ。

あの後、三人がランニングに行ったかどうか、そこんとこはよく覚えていない。行ってなかったとして、そんなことは大した問題ではないのだ。ケ・セラ・セラ。

では、今日はここまで。また、明日。