タロットマスターRuRu

小説•タロットマスターRuRu

Chapter3.休日と訪問者①

日曜日、三根奈都子は昼の十一時半前に外苑前駅に到着した。地下鉄の階段を小走りで上がる。地上に出ると、暑さと湿気でむせ返りそうになったが、奈都子は足早に歩き続けた。ヒールの低いサンダルにしてよかった、と思う。駅から歩いてすぐの商業ビル、そこの一階にあるダイニングカフェで待ち合わせをしているのだ。時計を見ると、約束の十一時半であった。

店に着いた奈都子は、入り口で待ち合わせの旨を店員に伝えると、すぐに席に案内された。店内は天井がかなり高く開放感があり、入口付近には、道路に向けてテラス席が設置されている。昼間は暑いせいか、そのテラス席には誰も座っていない。

「琉々!」

待ち合わせ時間ちょうどに到着した奈都子は、先に到着していた琉々を見て、呼びかけた。

「奈都子」

振り向いた琉々は、小さく手を振りながら応える。テーブルには飲みかけのカフェラテがあった。

「ごめん。待たせちゃった?」奈都子が椅子に座りながら言う。

「ううん。私が早く来ただけよ。ちょっとゆっくり考えたいことがあってさ」組んでいた脚をほどいて、琉々は座り直す。

「なになに?何かあった?恋愛?仕事?それともあれ?タロット店の事?」奈都子は少し前のめりになって聞く。ラメの入った薄いピンクのアイシャドウを付けている両目が、興味深そうに見開かれている。

琉々は、タロットリーディング店をやっている事は、同僚には秘密にしているが、親友の奈都子には話してある。

「うん…大した事ないよ」琉々は、金曜の夜の事を話そうと思ったが、今はやめておくことにする。

「お腹空いたね。何にしよう?」琉々は話題を逸らした。実際、結構空腹であった。二人は一緒にメニュー表に目を通す。

「私はいつものスープランチかなぁ。琉々はどうする?」

「うーん…本日のランチ、美味しそうだなぁ…」琉々は珍しく少し悩んでいる。この店は、二人の会社から一駅離れた場所にある。少し年齢層が高くなるこちらのエリアは、休日は比較的空いているので、二人はこの辺りの店で会うことが多かった。特に、琉々はこの店のコーヒーを気に入っているので、一人でも来ることもある。

「決めた!本日のランチにする」琉々はそう言って、店員の方を振り返ると、小さく手を上げて合図した。店内は、まだそんなに混んでおらず、店員はすぐに気づいて、二人のテーブルに近づいて来る。

「スープランチと、本日のランチを」琉々が二人分を一緒にオーダーする。セットのドリンクをどうするか聞かれたので、二人ともアイスレモンティーにした。奈都子が喉が渇いているので、料理の前に持ってきてもらうことにする。二人が話をしていると、すぐにアイスレモンティーが運ばれてきた。ついでに琉々の飲みかけのカフェラテを下げてもらう。テーブルからは外の景色がよく見える。今日は天気が良く、夏の大きな太陽が、ジリジリと世界を照らしている。

「そうだ、奈都子」グラスの氷をストローでくるくるとかき混ぜながら、琉々が呼びかける。

「式の準備はどう?もう二か月後ね」琉々は、微笑ましい表情をしている。式というのは奈都子の結婚式のことだ。もちろん、琉々は式にも披露宴にも出席する。

「大変とは聞いてたけどさ、既に疲れてるよ~!こないだやっと招待状の発送が終わったの。これから、当日の段取りとか、お花の事とか…まだまだやる事がいっぱいよ」そうは言っているが、奈都子の表情はどこか幸せそうだ。

「ふふ…」それを見て、琉々も嬉しくなる。

「あ!指輪もできたの。今日この後、引き取りに行ってくる」

「指輪って聞くと、本当に結婚なんだって、実感湧いてくるね~。私じゃないけど」それを聞いた奈都子がクスッと笑う。

「ぶっちゃけ、今はそれどころじゃないけどさ、琉々のそーゆー話も、楽しみにしてるからね!」

奈都子の婚約者には、琉々も何度か会ったことがある。奈都子が大学の頃から付き合っている尾上圭介(おのえけいすけ)は、短髪で長身の爽やかな男だ。学生時代はバスケットボール部に入っていたため、体格もいい。小柄な奈都子と並ぶと、かなりの身長差になる。圭介は、今もたまにバスケットボールチームの練習に行くので、琉々は奈都子に連れられて見に行った事がある。

店員が二人の邪魔にならないよう、会話の隙間を縫って料理を置いていった。