タロットマスターRuRu

小説•タロットマスターRuRu

Chapter2.丘咲リョウ①

「んだよ…」

丘咲リョウはそう呟いて、歩道の植え込み沿いに設置されているベンチに乱暴に座った。両手で長い前髪をグシャッと掴むと、セットした髪型が崩れたが、そんなことはどうでもよかった。それよりも、今、自分が置かれている状況を整理しようと、一所懸命考えている。彼は、数時間前に会社から解雇宣告を受けたのだ。いわゆるリストラである。会社の業績が落ちているのも原因の一つだろう。しかし、丘咲の仕事っぷりに、特別悪いところは見当たらなかったし、社内での人付き合いもいい方で、上司からの受けもまずまであった。だが、彼には仕事への情熱は欠けていた。それを見抜かれていたのだろう。実際、丘咲自身が今まで生きてきた中で、情熱を持って取り組めることに出会ったことがない。学生時代のクラブ活動、習い事、テレビや芸能人、ゲーム。どれもハマったことがない。勉強にしろ、スポーツや習い事にしろ、努力なしで、なんとなくこなせてしまうことが原因の一つかもしれない。いわゆる器用貧乏というやつだ。就職も、特にこだわりや、やりたいことがあって選んだわけでなく、両親に勧められるまま、今の会社を選んだに過ぎなかった。彼は今まで、与えられた状況と当たり前の日常を、なんとなく生きてきたのだ。

スーツのジャケットを脱いでネクタイを緩めると、両手を後ろについた。華の金曜日、駅周辺はこれから遊びに行く人たちで賑わっている。丘咲は、ぼんやりとその風景を目に映していた。コンビニで買っておいた缶コーヒーを開けて、一気に飲み干す。冷たい液体が喉を通る感触が心地いい。ビールにすればよかったな、と少し後悔した。空き缶を投げつけたい衝動に駆られたが、理性でその気持ちを押さえつけ、もう一度ベンチに戻す。先の尖った靴で、足元にあったタバコの吸い殻を転がした。

「はぁ」

と、大きなため息をついた。立ち上がる気にもなれない。絶望しているわけではない。ただ、当たり前の日常が突然なくなってしまった事実について考えると、気分は重かった。何より、両親になんと報告したらいいのか、それが一番心に引っかかっていた。仕事一本で生きている厳格な父親と、いつも柔らかくにこやかな母の表情が目に浮かんだ。就職が決まった時は、丘咲の好物をたくさん作って祝ってくれた。父も、珍しく笑顔を見せていた。

しばらくの間、ベンチに座ったまま、あれこれと出てくる思考を整理しよう努力をしたが、何も解決はしなかった。日が暮れ始め、街が薄暗くなってきた頃、丘咲はクシャクシャにした髪の毛を整え直して、ようやく立ち上がった。スーツのシワを両手ではらって整える。

「金曜だし、飲みに行くかぁ」

そう言ってふらりと歩き出すと、細身で小柄な丘咲は街の中に溶け込んでいった。

丘咲リョウ

【おかざきりょう】リストラ生活真っ只中。ひょんなところから琉々のタロット店に出入りするようになる

24歳•誕生日6/8

神奈川出身

無職(?)

趣味:DIY

好きなもの:アイスクリーム、海

嫌いなもの:石鹸が水に濡れた状態、虫